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浦和地方裁判所 昭和49年(行ウ)6号 判決 1981年2月26日

埼玉県所沢市小手指町一丁目二九番地の七

原告

亡安次嶺亀助訴訟承継人

安次嶺カメ

埼玉県所沢市小手指町一丁目一三番地の二一

原告

亡安次嶺亀助訴訟承継人

安次嶺榮助

埼玉県所沢市緑町四丁目七番二号

原告

亡安次嶺亀助訴訟承継人

安次嶺榮進

埼玉県所沢市松葉町一一の一一

原告

亡安次嶺亀助訴訟承継人

安次嶺榮光

埼玉県所沢市小手指町一丁目二九番地の七

原告

亡安次嶺亀助訴訟承継人

安次嶺徳榮

埼玉県所沢市小手指町一丁目二九番地の七

原告

亡安次嶺亀助訴訟承継人

安次嶺榮吉

埼玉県所沢市小手指町一丁目二九番地の七

原告

亡安次嶺亀助訴訟承継人

安次嶺榮七

埼玉県所沢市小手指町一丁目二九番地の七

原告

亡安次嶺亀助訴訟承継人

安次嶺榮次

埼玉県所沢市小手指町一丁目四二番地の一〇

原告

亡安次嶺亀助訴訟承継人

仲村静子

右原告九名訴訟代理人弁護士

中嶋郁夫

埼玉県所沢市下新井四三三番地

被告

所沢税務署長

庄司榮

右指定代理人

梅村裕司

奥原満雄

岩田栄一

中島重幸

阿南一徳

渡辺克己

神林輝夫

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、昭和三八年九月一六日付で、原告らの被承継人安次嶺亀助の昭和三六年分の所得税についてなした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定のうち、総所得金額一〇七万三五五〇円、税額金一三万一二五〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定の全部を取り消す。

2  被告が、昭和四一年一〇月四日付で、同安次嶺亀助の昭和三八年分の所得税についてなした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定のうち、総所得金額金一六六万四一〇〇円、税額金二六万四〇四〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定の全部を取り消す。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らの被承継人亡安次嶺亀助(昭和五二年二月一日死亡、以下単に「亡亀助」と略称する。)は、かって農業を営んでいたものであるが、その昭和三六年度分及び昭和三八年度分の所得について、別表一の各確定申告欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告(ただし、昭和三六年当時亡亀助の納税地を所轄する税務署長は、川越税務署長であったが、昭和四七年七月一〇日、右納税地を所轄する税務署長は、被告である所沢税務署長に変更され、被告が右川越税務署長の権限を承継した。)から同表更正決定欄記載のとおり、更正処分及び過少申告加算税賦課決定(以下一括して「本件課税処分」という。)を受けたので、昭和三六年分の各処分に対しては、再調査請求を、昭和三八年の各処分に対しては、異議申立をした。その結果、右再調査請求は、異議申立とみなされ、同表昭和三六年分「右決定」欄記載のとおり棄却されたため、亡亀助は、右決定に対し、関東信越国税局長に審査請求をし、又昭和三八年分の各処分に対する意議申立は、審査請求とみなされた。そして、右各審査請求は、その後設立され、右審理を承継した関東信越国税不服審判所長により同表各裁決欄記載のとおり、いすれも棄却された。

2  亡亀助は、昭和五二年二月一日死亡し、原告らは、いずれも亡亀助の妻及び子であり、相続によって亡亀助の財産上の権利義務をすべて承継した。

3  しかしながら、被告が亡亀助に対してなした本件課税処分は、いずれも総所得金額を過大に認定した違法があるから、原告らは、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実は認めるが、同3の主張は争う。

三  被告の主張

1  昭和三六年分の総所得金額

(一) 亡亀助の昭和三六年分の総所得金額は、次のとおり金二五二万八六三六円である。

(1) 農業所得金額 金二四万七八〇〇円

(亡亀助の申告額のとおり)

(2) 譲渡所得金額 金二二八万〇八三六円

(二) 右総所得金額のうち、争いのある譲渡所得金額金二二八万八三六円の認定根拠は、次のとおりである。

(1) 収入金額 金四八三万一八〇〇円

亡亀助は、昭和三六年四月二八日、訴外キンケイ食品工業株式会社(以下単に「キンケイ食品」と略称する。)に対し、同人の所有する別表二の1中、「上記土地のうち、亡亀助所有の土地の譲渡分(坪)」欄記載の土地(以下「本件土地1」という。)を一坪当り三〇〇〇円で売却したが、その譲渡代金は、合計金四八三万一八〇〇円である。

(2) 本件土地1の取得費及び譲渡費用

金一二万〇一二七円

ア 取得費 金一〇五五円

本件土地1の取得費は、亡亀助が、昭和二六年一一月一日、右土地を埼玉県から買い受けた時の取得価額金八一一円七四銭(坪当り金五〇銭四厘)に、昭和三七年法律第四四号による改正前の旧所得税法一〇条の四第二項二号旧資産再評価法二一条二項別表七により再評価倍数一・三を乗じて算出した。

イ 譲渡経費 金一一万九〇七二円

亡亀助は、キンケイ食品に対し、本件土地1のほか、昭和三六年八月二八日、別表二の2、3中、各「上記土地のうち、亡亀助所有の土地の譲渡分(坪)」欄記載の土地(以下「本件土地2、3」という。)を同表1ないし3記載の訴外新里盛孝、同大城弘正、同安座間盛繁、同上新井開拓蓄産農業協同組合とともに、同人ら所有の同表記載の各土表と一括して売却したのであるが、右売却に当り、亡亀助らは、訴外鬼頭一二に対し、売買仲介手数料として総額金九八万円を支払ったので、右の金九八万円を右売却土地の合計地積一万三二五六・六坪で除した坪当り金七三円九三銭の仲介手数料に、亡亀助が所有していた本件土地1の地積一六一〇・六坪を乗じて算定した。

(3) 譲渡所得金額

したがって、本件土地1の売却にともなう亡亀助の譲渡所得金額は、収入金額金四八三万一八〇〇円から、取得費及び譲渡費用金額金一二万一二七円並びに昭和四〇年法律第三三号による改正前の旧所得税法九条に基づく譲渡所得の特別控除額金一五万円を控除した金四五六万一六七三円の二分の一に相当する金額(金二二八万八三六円<円未満切捨>)として算定した。

2  昭和三八年分の総所得金額

(一) 亡亀助の昭和三八年分の総所得金額は、次のとおり金七六〇万四五六二円である。

(1) 農業所得金額 金一九万九一〇〇円

(亡亀助の申告額のとおり)

(2) 譲渡所得金額 金七四〇万五四六二円

(二) 右総所得金額のうち、争いのある譲渡所得金額七四〇万五四六二円の認定根拠は、次のとおりである。

(1) 収入金額 金一五二四万四三三一円

亡亀助は、昭和三六年八月二八日、キンケイ食品に対し、本件土地2、3(合計二九八六・九坪)を坪当り金四五〇〇円合計金一三四四万一〇五〇円(本件土地2は、金一三〇〇万六三五〇円、本件土地3は、金四三万四七〇〇円)で売却し、その後、更に昭和三八年一二月一七日、右各土地の売却代金増額分として、キンケイ食品から坪当り計六〇三円七三銭の合計金一八〇万三二八一円を受け取ったので、結局、本件土地2、3の売却代金は、総額金一五二四万四三三一円である。

(2) 本件土地2、3の取得費及び譲渡費用

金二八万三四〇七円

ア 取得費 金六万二五八五円

本件土地2、3も、亡亀助が、昭和二六年一一月一日、埼玉県から買い受けたものであるが、右各土地の取得価額は、昭和四〇年法律第三三号による改正前の旧所得税法一〇条の五第三項一、二号、同法施行規則一二条の一九によって、別表三のとおり同表「賃貸価格」欄記載の昭和二八年一月一日現在の右各土地の賃貸価格に、同表「倍数」欄記載の国税庁長官が定めて公表した倍数を乗じて算出した。

イ 譲渡経費 金二二万八二二円

亡亀助は、本件土地2、3の売却に当り、前記のとおり、鬼頭一二に対して坪当り金七三円九三銭の仲介手数料を支払ったので、本件土地2、3の譲渡経費は、右金額に本件土地2、3の地積(合計二九八六・九坪)を乗じて算定した。

(3) 譲渡所得金額

したがって、本件土地2、3の売却にともなう亡亀助の譲渡所得金額は、収入金額金一五二四万四三三一円から取得費及び譲渡費用金額金二八万三四〇七円並びに昭和四〇年法律第三三号による改正前の旧所得税法九条に基づく譲渡所得の特別控除額金一五万円を控除した金一四八一万九二四円の二分の一に相当する金額(金七四〇万五四六二円)として算定した。

(三) なお、亡亀助は、昭和四四年法律第一五号による改正前の旧租税特別措置法三八年の六(事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の金額の計算)に基づいて譲渡所得を計算し、所得税の申告をしているが、亡亀助には買換え資産の取得の事実がないので右条項の適用はない。

3  過少申告加算税

(一) 昭和三六年分

亡亀助が被告の行なった前記更正処分に基づき納付すべき昭和三六年分の所得税額は、金三一万五五六〇円(更正税額から申告税額を控除した額)であるが、右の計算の基礎となった事実のうちには、昭和三七年法律第六七号による改正前の旧所得税法五六条一項の正当な理由は認められなかったので、同法五六条一項、六項、五四条四項により、右金額の一〇〇〇円未満を切捨てた金三一万五〇〇〇円に一〇〇分の五を乗じて得た金一万五七五〇円を亡亀助の過少申告加算税として賦課決定した。

(二) 昭和三八年分

亡亀助が被告の行なった前記更正処分に基づき納付すべき昭和三八年分の所得税額は、金一五六万七五二〇円(更正税額から申告税額を控除した額)であるが、右更正により増加した所得税額の計算の基礎となった事実のうちには、国税通則法六五条二項の正当な理由は認められなかったので同法六五条一項、昭和四五年法律第八号による改正前の旧国税通則法九〇条三項により右金一五六万七五二〇円の一〇〇〇円未満を切捨てた金一五六万七〇〇〇円に一〇〇分の五を乗じた金七万八三五〇円を亡亀助の過少申告加算税として賦課決定した。

四  被告の主張に対する原告らの認否及び反論

1  昭和三六年分の総所得金額について

(一) 農業所得金額

亡亀助の農業所得が金二四万七八〇〇円であったことは認める。

(二) 譲渡所得金額

(1) 本件土地1の売却代金

本件土地1が、昭和三六年四月二八日、キンケイ食品に対し、坪当り金三〇〇〇円、総額金四八三万一八〇〇円で売却されたことは認めるが、本件土地1が右売却の当時亡亀助の所有であったとの点は否認する。

(2) 収入金額

本件土地1の売却にともなう亡亀助の収入金額が、金四八三万一八〇〇円であるとの点は争う。

(3) 譲渡資産の取得費及び譲渡費用

本件土地1の取得費及び譲渡費用が総額金一二万一二七円であるとの点は不知。ただし、坪当りの取得価額及び再評価倍数は認める。

亡亀助は、昭和三六年一月二八日、訴外安次嶺次郎(以下単に「次郎」と略称する。)、同仲村正一、同大城弘正、同安座間盛繁、同新里盛孝との間において、次郎が計画又は立案する同人らの共同事業のために、次郎を除く亡亀助ら五名は、同人らの所有する埼玉県所沢市北野字小手指所在の畑、山林等合計約三万坪を現物出資し、次郎は、労務を出資することとし、同事業から生ずる収益は、亡亀助ら六名が平等に分配する旨の組合契約を締結するとともに、右同日、本件土地1ないし3を同組合へ現物出資した。

そこで、次郎は、亡亀助ら組合員の承諾を得たうえ、亡亀助らの共同事業を遂行するための一環として、同人らを代理して、昭和三六年四月二八日、キンケイ食品に対し、本件土地1を含む別表二の1記載の土地合計五八〇三・〇〇坪を坪当り金三〇〇〇円、合計金一七四〇万九〇〇〇円で売却し、亡亀助は、右組合契約に基づき、右金一七四〇万九〇〇〇円の六分の一に当る金二九〇万一〇〇〇円の配分を受けたにすぎない。

2  昭和三八年分の総所得金額について

(一) 農業所得金額

亡亀助の農業所得が金一九万九一〇〇円であったことは認める。

(二) 譲渡所得金額

(1) 本件土地2、3の売却代金

本件土地2、3は、昭和三六年八月二八日、キンケイ食品に対し、坪当り金四五〇〇円で売却されたが、その代金は、昭和三八年一二月一七日増額されて、結局、坪当り金五一〇三円七三銭、総額金一五二四万四三三一円となったことは認めるが、本件土地2、3が右売却の当時亡亀助の所有であったとの点は否認する。

(2) 収入金額

本件土地2、3の売却にともなう亡亀助の収入金額が金一五二四万四三三一円であるとの点は争う。

(3) 譲渡資産の取得費及び譲渡費用

本件土地2、3の取得費及び譲渡費用が金二八万三四〇七円であるとの点は不知。

前記のとおり、亡亀助は、本件土地2、3を組合契約に基づき、組合へ現物出資していたから、次郎が亡亀助ら組合員の承諾を得たうえ、同人らを代理して、昭和三六年八月二八日、キンケイ食品に対し、本件土地2、3を含む別表二の2、3記載の土地合計七四五三・六坪を最終的に坪当り金五一〇三円七三銭、合計金三八〇四万一二〇〇円で売却し、亡亀助は、組合契約に基づき右金額の六分の一強に当る金六三四万七〇〇円の配分を受けたにすぎない。

3  仮に前記組合契約締結の主張が認められないとしても、亡亀助ら六名に対しては、キンケイ食品に売却した土地の代金が同人らの所有する土地の広狭もしくは有無に関係なく均等に金八七五万円(前記各年の各配分金額から取得費及び譲渡費用を差引いた金額の合計額で昭和三六年分につき、金二六八万円強、昭和三八年分につき六〇六万円強)宛配分され、亡亀助も、同金額を受領したのみであるから、被告がただ単に登記簿上の名義を基礎に、亡亀助に対し、本件土地1ないし3の売却代金を同人の収入金額として課税したのは収益のない者に租税を課したことになり、実質課税の原則に反して違法である。

第三証拠

一  原告ら

1  甲第一ないし第五号証

2  乙第一号証、第四号証の一ないし三、第五号証の成立並びに原本の存在とその成立は認める。その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一ないし第三号証、第四号証の一ないし三、第五ないし第二三号証、第二四号証の一、二、第二五号証の一ないし四第二六、第二七号証

2  甲第三号証、第五号証の成立並びに原本の存在とその成立は認める。第四号証の成立は認める。その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一  請求原因1、2記載の事実については、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件更正処分には、亡亀助の所得を過大に認定した違法があるか否かについて検討する。

亡亀助の昭和三六年分総所得金額のうち、農業所得金額が金二四万七八〇〇円であつたこと、昭和三八年分の総所得金額のうち、農業所得金額が金一九万九一〇〇円であつたことはいずれも当事者間に争いがないが、譲渡所得金額については、被告は、昭和三六年分が金二二八万八三六円、昭和三八年分が金七四〇万五四六二円である旨主張するので、以下に亡亀助の譲渡所得金額について判断する。

1  収入金額について

本件土地1ないし3は、いずれもかつて亡亀助の所有であつたが、本件土地1は、昭和三六年四月二八日に、本件土地2、3は、同年八月二八日に、それぞれキンケイ食品に売却されたこと、本件土地1の売却代金は、坪当り金三〇〇〇円、合計金四八三万一八〇〇円であり、本件土地2、3の売却代金は、昭和三八年一二月一七日に至つて坪当り金五一〇三円七三銭、合計金一五二四万四三三一円と確定したことは、当事者間に争いがない。

いずれも原本の存在及びその成立につき争いのない甲第三号証、乙第一号証、いずれも成立に争いのない乙第二号証、第八ないし第一三号証、第一六ないし第二三号証(ただし、右各証拠のうち、後記措信しない部分を除く)並びに右乙第八、第九号証、第一一号証、第一七ないし第二一号証ににより原本の存在成立の認められる甲第一、第二号証を総合すると、亡亀助、仲村、大城、安座間、新里ら五名(以下「亡亀助ら」という)は、いずれも沖縄県出身の海外引揚者であり、昭和二六年各自が自作農創設特別措置法四一条の規定により未墾地である本件土地を含む本件開拓地の各一部の売渡を受け、農業に従事していたが、苦しい生活を余儀なくされていた。このため、昭和三五年半ばごろ亡亀助の家族は農業に代つて右開拓地を利用した事業を始めたいと考え、叔父(亀助の弟)に当り事業の経験も豊富な次郎に相談したところ、次郎も本件開拓地を一括して活用することを勧めた。そこで、亡亀助らは、同年秋頃次郎の自宅に集つて協議し、次郎から本件開拓地を一括して工場用地として利用するのが得策である旨をきき、その手段、方法等の立案、実行を次郎に一任し、これが実現したときは次郎にもその利益を配分することを了承した。右依頼を受けた次郎は、当初亡亀助らにおいて共同して会社を設立して工場経営に当ること、或いは本件開拓地に他企業の工場を誘致し土地を現物出資として株式を取得し、亡亀助らにおいて企業の経営に参加することを構想していた(しかし、民法上の組合を成立させて右事業をすることは考えていなかつた。)。そこで、次郎は、右開拓地を工場用地に転用するための農地法上の許可を得るため折衝すると共に、誘致すべき工場を深し、キンケイ食品と右開拓地に工場を新設させるための交渉を進めていった。その間、次郎は自らの構想を亡亀助らに周知させ、当事者相互間の関係を明確にするため昭和三六年一月二八日亡亀助らを亀助宅に参集させ、予め用意して来た「契約書」と題する書面(甲第一号証)に署名、押印を求めたところ亡亀助ら(一部はその家族)は結局これに同意して署名、押印した。なお、その後同年七月二八日右「契約書」の内容を一部補正する趣旨で、右当事者間において「覚書」と題する書面(甲第二号証)が作成された。右「契約書」の趣旨は、本件開拓地約三万坪の工場用地への転用を図り、転用された開拓地の利用方法は、亡亀助らにおいて株式会社を設立しその工場用地として利用し、亡亀助らが各自所有の本件開拓地を右設立した会社に現物出資するか、又は他の会社の工場を誘致し亡亀助らは右会社に提供する本件開拓地の代償として同会社の株式を取得する。右設立会社又は誘致会社の株式は亡亀助らにおいてその現物出資又は提供した土地面積に応じて取得し、次郎は亡亀助から同等に(六分の一)その取得した株式の分与を受け、亡亀助らはそれぞれ右工場経営に参加する。次郎は、その知識、経験を活用してその実現を図り、亀助らはその目的達成に必要な事項に関する代理権限を次郎に授与するとしたものであり、その後同年七月二三日作成の「覚書」において、右目的を達成するため必要に応じ本件開拓地の一部を他に売却し得ることを確認し、かつ右売却代金の一部を分配することを定めた。

かくして次郎は、亡亀助外新井農業協同組合所有名義の本件開拓地合計一万三二五六・六坪を三回にわたりキンケイ食品に亡亀助らの代理人として売渡す契約を締結し、第一回の売渡分の土地につき二万五〇〇〇株の株式及び現金を受取り、亀助らに四〇〇〇株(次郎において五〇〇〇株)ずつ分配し、現金の一部は後の企画のための経費として次郎において保管し一部は亡亀助ら(対象所有名義人以外の者を含む)に分配された。

しかし、間もなく、第二、第三回の契約の履行をめぐりキンケイ食品との間に紛争を生じ、浦和地方裁判所川越支部に対し、キンケイ食品から訴訟提起に至つたが、昭和三八年一二月一七日和解が成立し、解決するに至つたが、その骨子は、キンケイ食品が買受代金を合計四五〇万円増額し、同訴訟の被告ら(亀助ら)はキンケイ食品への登記請求に応じたうえ、亡亀助らは、三回にわたる売買代金を一括して各六分の一づつ取得するものとし、その精算関係を明瞭ならしめるものであつた。しかし、右第一ないし第三回の契約の必要経費として支出したものと次郎の主張する金額が多額に過ぎるとして、一部相手方がこれを承認しなかつたことからその差額をキンケイ食品が負担することになつたため、右精算関係は亡亀助とそれ以外の相手方とにつき各別になされた。

右認定事実からみると、前記「契約書」の記載は、その形式がすべて亀助らと次郎との間の契約としてなされているのみならず、組合契約が成立したとするためには、少くとも、一定の目的とそれを当事者全員の共同事業として営むことについて全員の合意がなされていなければならないところ、右「契約書」及び「覚書」の記載による合意の内容からは直ちにそれ自体が完結的な一定の目的と亡亀助ら及び次郎の共同事業として営む事業内容とその業務執行方法を定めたものとしては確認し得ず、目的の明示されていない株式会社の新規設立又は既設会社への現物出資、株式取得にする経営参加等その目的達成への過程を代行させるため亡亀助らの代理権を次郎に授与することを定めたにすぎないものとみられ、次郎及び亡亀助らにおいても組合契約締結の認識はなかつたのであつて、次郎に対する他と同等(六分の一)の株式の分与も亀助らが専ら次郎の知識・経験を利用した委任事務に対する報酬としての性格が強いものというべきであるから、亡亀助ら及び次郎が前記「契約書」及び「覚書」に署名、押印したことにより直ちに組合契約が成立し、これにもとずいて現物出資がなされたということはできない。なお、亡亀助らとキンケイ食品との間の第一回契約によつて取得した株式の全員への一律配分は、当時予想されていた残余開拓地のその後の処分終了時における精算を予定したことがうかがわれるし、第二、第三回契約による売得金の前記裁判上の和解における精算も亡亀助らとキンケイ食品との紛争を解決し併せて次郎と亡亀助らとの必要経費をめぐる争いをキンケイ食品の譲歩により解決することを主たる目的としたもので、亡亀助ら間における調整は後に残したものと解する余地があり、この点についても、原告ら主張の組合契約の存在を前提としなければならないものとは認められない。

以上の認定に反する甲第五号証、乙第八ないし第一一号証、第一七ないし第二〇号証は容易に措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の認定事実によれば、本件土地1ないし3は、キンケイ食品に売却される時点において、亡亀助の単独所有であり、同人がこれを売却したものである。

そうすると、本件土地1の売却代金四八三万一八〇〇円、本件土地2、3の売却代金一五二四万四三三一円は、いずれも亡亀助に帰属したものというべきである。

もつとも、原告らは、仮に組合契約が認められないとしても、亡亀助が本件土地1ないし3の売却によつて得た代金は、合計金八七五万円のみであるから、被告の亡亀助に対する本件課税処分は、収益のない者に租税を課したもので違法である旨主張し、原本の存在とその成立に争いのない甲第三号証、前掲乙第一一号証、第一七号証によれば、亡亀助が本件土地1ないし3の売却によつて現実に受け取つた代金は、ほぼ合計金八七五万円であつたと認められるが、譲渡所得に対する課税は保有資産が譲渡によつて保有者の手を離れるのを機会に、保有者に対しその保有期間中の増加益を所得として精算して課税する趣旨のものと解されるから、亡亀助所有の本件土地1ないし3が譲渡されその増加益が実現された以上、右土地の売却代金現実の収受を終つたか否かにかかわらず、その増加益を亡亀助の収入とみるのが相当である。

2  取得費

(一)  本件土地1について

本件土地1の取得価格が坪当り金五〇銭四厘に再評価倍数一・三を乗じた額であることは当事者間に争いがないから、右金額に本件土地1の地積一六一〇・六坪を乗じた金一〇五五円が本件土地1の取得費となる。

(二)  本件土地2、3について

本件土地2、3の取得費は、いずれも成立に争いのない乙第二四号証の一、二、第二五号証の一ないし四によれば、被告主張のとおり、別表三記載の本件土地2、3の賃貸価格に同表記載の倍数を乗じた同表「取得価額」欄記載の金額をもつて相当であると認められる(ただし、計算上の価額は、同表「取得価額の訂正額」欄記載の金額となるが、右誤算は、取得価額を合計で金二五円多く算出しているにすぎないうえに、原告らにとって利益にこそなれ、不利益とはならない)。

3  譲渡経費

成立に争いのない乙第二七号証によれば、前記別表二記載の各土地をキンケイ食品に売却するにあたつて亡亀助らは、鬼頭一二に対し、その仲介手数料として金九八万円を支払ったことが認められる。したがつて、同金額から本件土地1及び本件土地2、3の各地積の割合に従つて右各土地の譲渡費用算定すると、本件土地1の譲渡費用は、金一一万九〇七二円、本件土地2、3のそれは、金二二万八二二円となる。

なお、原告ら提出の前掲甲第三号証には別表二記載の土地の売却に要した費用が金二九五万二〇〇円である旨記載された部分もあるが、右証拠記載の金額は、前掲乙第二七号証、成立に争いのない乙第六号証に照らし直ちに現実に生じた費用とはみられず、他に前記認定を覆えすに足りる証拠はない。

4  譲渡所得

そうすると、他に特段の証拠のない本件においては、亡亀助の昭和三六年分の譲渡所得は、本件土地1の譲度による収入金額金四八三万一八〇〇円から、取得金一〇五五円、譲渡費用金一一万九〇七二円及び譲渡所得の特別控除額金一五万円を控除した金額の二分の一に相当する金二二八万八三六円となり、昭和三八年分の譲渡所得は、本件土地2、3の譲渡による収入金額金一五二四万四三三一円から、取得費金六万二五六〇円、譲渡費用金二二万八二二円及び譲渡所得の特別控除額金一五万円を控除した金額の二分の一に相当する金七四〇万五四七四円となる。

よって、亡亀助の昭和三六年分の総所得金額が金二五二万八六三六円、昭和三八年分が金七六〇万四五六二円であるとする被告の認定には違法がない(右昭和三八年分の総所得金額の実額は七六〇万四五七四円であって金一二円の誤算があるが、右は前記のとおり原告に利益にこそなれ不利益はないから、これをもって違法とすることはできない)。

三  右のとおりであるから、前記亡亀助の申告総所得金額及び当裁判所の認定した被告主張の亡亀助の総所得金額に基づいて亡亀助に対する法定の過少申告加算税を算定すると被告主張のとおり、昭和三六年分は、金一万五七五〇円、昭和三八年分は、金七万八三五〇円となる。

四  以上の次第で、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邊卓哉 裁判官 野田武明 裁判官 友田和昭)

別表一

(昭和三六年分)

<省略>

(昭和三八年分)

<省略>

別表二

1 第一次契約

<省略>

2 第二次契約

<省略>

3 第三次契約

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別地 三

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自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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